「つくって終わり」ではない空間価値の創造。J.フロントプライムスペースが目指す唯一無二の挑戦
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商業施設や店舗などの空間は、完成した瞬間がゴールではありません。人が訪れ、働き、設備が動き、清掃や警備が入り、日々使われ続けていく。その時間まで見つめたとき、空間の価値はどう変わるのでしょうか。 2026年3月、J.フロントグループのJ.フロント建装と、パルコスペースシステムズが統合し、「J.フロントプライムスペース」が新たにスタートしました。2026年度売上収益目標760億円、従業員約1,400人。空間ディスプレイ・内装業界で3位規模となる新会社は、業界の中で独自の存在感を示すべく歩み出しました。 ラグジュアリーブランドやホテル、船舶内装など、難易度の高い施工を重ねてきたJ.フロント建装の「技術力」。そして商業施設の内装工事から、設備、警備、清掃、メンテナンスを通じて日常の現場を支え続けてきたパルコスペースシステムズの「運営視点」。異なる背景を持つ人たちが一つになった今、どのような空間づくりが生まれようとしているのでしょうか。経営陣と現場で活躍する若手・中堅メンバーに聞きました。
執筆・編集:末吉陽子 撮影:寺澤洋次郎
「つくる人」と「守る人」が一つに。成長のための統合が始まった
──まずは、新会社発足の経緯について教えてください。
代表取締役社長 𠮷村穣氏(以下、𠮷村):設計・施工の領域で高い技術力を持つJ.フロント建装と、内装をはじめ商業施設の運営・管理のノウハウを持つパルコスペースシステムズ(以下、PSS)の融合により、空間をつくるところから、その後の維持管理まで担える新しい会社として、さらに規模を拡大していきたいという思いがありました。
内装事業と施設事業の双方を持っている会社は、実は日本にほとんどありません。ですので、J.フロントプライムスペースは、業界内で唯一無二の存在を目指せる会社だと考えています。
──統合によって、規模はどのように拡大しましたか。
𠮷村:2026年度は売上収益760億円を目指しています。これを達成すると、空間ディスプレイ・内装業界で3位規模の会社になります。また、従業員数も約1,400人規模になりました。規模の拡大は人材採用の面でも大きな意味があります。両事業とも人が要ですから、会社の規模感や認知度が高まれば、より幅広い人財に興味を持ってもらえます。育成の面でも、これまで別会社として培ってきた、それぞれの人財育成のノウハウを持ち寄ることで、成長のスピードを高めていけると考えています。

──会社名の「プライムスペース」は、直訳すると「最上の空間」です。どのような意思が込められているのでしょうか。
𠮷村:内装領域の案件は、グループ外が7割を占め、ラグジュアリーホテルやラグジュアリーブランドの内装施工が中心です。また、ダイヤモンド・プリンセスのような大型客船、さんふらわあのような大型フェリー、TWILIGHT EXPRESS 瑞風などの豪華寝台列車といった特殊内装もあります。いずれも、店舗ごと、案件ごとに条件もデザインも異なるため、毎回どう形にするかを突き詰めて考えなければなりません。
また、ラグジュアリーブランドやホテルでは、最近は海外デザイナーが多くなっています。言葉の壁もありますし、ラフなスケッチから意図を読み取り図面や施工に落とし込むような、難易度の高い仕事も少なくありません。当然、日本の法規制をクリアする必要もあります。だからこそ、当社の設計力や現場のクオリティ、相手の意図を想像し引き出す「翻訳力」が生きます。「プライム」には、そうした上質な仕事をしていきたいという思いを込めています。

取締役副社長 車田恭之氏(以下、車田):空間創造の領域では「ニッチトップ」を目指し、質の高い、ワンランク上のマーケットで勝負していきたいという思いもあります。
ただ、「プライムスペース」とは、デザインや素材の質だけでなく、そこで働く人や訪れるお客さま、運営する人まで幸せになってこそ「最上の空間」だと思うのです。その意味で私たちの強みが最も発揮されるのは商業施設です。
PSSはグループ外の取引が半分を占めており、パルコだけではなくさまざまな商業施設に設備・警備・清掃のスタッフが常駐し、日々の運営を支えてきました。統合により、内装事業と施設管理のバックボーンを併せ持つことで、完成した瞬間だけでなく、何年も使われ続ける姿まで想像できる点は大きな強みです。
また、PSS出身のスタッフには、設備を見るだけでなく改装工事までこなせるマルチタスク人財が多く、一人ひとりが何役も担えるため、現場の課題に効率よく対応できます。工事においては内装工事だけでなく電気設備工事にも強く、加えて運営面からも施設を見られる内装会社は多くありません。運営の知識と工事の技術を兼ね備えていることこそ、PSSから受け継ぐ最大の強みです。

――「つくる人」と「守る人」が同じ会社にいる価値とはどのようなものでしょうか。
𠮷村:クライアントの立場で考えると、一つの会社にまとめて発注できるメリットは大きいと思っています。内装工事とその後の施設管理を別会社が担うと、改修時にまた一から確認しなければなりません。しかし、使用材料やメンテナンス方法を一番よくわかっているのは実際に工事をした当事者です。
内装工事から施設管理、改修までを一社が担うことで、空間の情報を引き継ぎながら長期的に建物の価値を高めていけます。
車田:素材選びでも「傷みやすいか」「メンテナンスは大変か」という目線で判断できます。たとえば2連のトイレットペーパーホルダーを3連にするだけで、交換頻度が下がり、日々のメンテナンスは格段に楽になるんです。
空間をつくった後の維持管理まで見据えて考えることで、見た目だけでなく使いやすく管理もしやすい施設になり、結果として働く人やお客さまにも喜ばれると信じています。
𠮷村:われわれは、内装と施設の連携を「循環型営業」と呼んでいますが、内装事業にはホテルのお客さまも多くいらっしゃいますし、施設管理でもホテルの清掃などをやっているわけです。施設のお客さまにリニューアルの情報がないか、工事のお客さまに施設の管理や清掃のニーズがないかを伺うなど、すでに相互にアプローチを始めています。
異なる知見が現場で交わる。統合で生まれ始めた連携とスピード
――文化の違いも含めて、統合によるシナジーはすでに感じられているのでしょうか。
𠮷村:正直なところ、統合してまだ3カ月なので、いきなり大きなシナジーが出てくるわけではありません。これまではお互いの事業を知ることに軸足を置いてきました。
車田:今も旧会社で受注した仕事をそれぞれの現場で動かしている段階で、正直まだ時間はかかると思います。ただ、小さくても「一緒になったからできた」という実績を積み重ねれば、社員の意識にも浸透していくはずです。
――では、メンバーの皆さんに伺います。実際に一緒に仕事をするようになって、改めて気づいた相手の強みはありますか。
S.I(商環境3部1課 ※J.フロント建装出身/以下、S.I):入社当初からPSSの同年代の社員と交流する機会は多く、話してみるとPSSのメンバーは若いうちから自分の業務を持ち、専門性の高い仕事を早い段階から任されている印象がありました。
J.フロント建装には一人前になるまで3年間のトレーニング期間があり、私は今3年目ですが、まだ完全に一人でやっているという感覚ではありません。
A.W(商環境2部2課 ※PSS出身/以下、A.W):名古屋栄で2026年にオープンした商業施設「HAERA」でS.Iさんと一緒に仕事をしましたが、空間施工の前線に立っていて3年目だとは思えませんでした。私から見ても、J.フロント建装の方は独り立ちが早い印象でしたね。
K.K(施設マネジメント1部 名古屋広域事業所 副所長 兼 HAERA副所長 ※PSS出身/以下、K.K):現場を見ていると真面目な方が多いと感じました。この業界ではオープン後に不具合や仕上がりを調整する対応がどうしても発生するものです。しかし、J.フロント建装出身者が担当したHAERAのラグジュアリーブランドから、大きなトラブルは施設側に上がってきませんでした。
求めるレベルの高いラグジュアリーブランドの案件を、トラブルなくきちんと納める。その技術力、真摯な姿勢は大きな強みだと思いました。

――HAERAのプロジェクトで印象に残っていることを教えてください。
S.I:ブランドが大切にしている世界観をどう空間として形にするか、設計や施工、協力会社の皆さんと一つひとつ確認しながら進めていく中で、内装の仕事の難しさと面白さを実感しました。入社1年目からHAERAに入るラグジュアリーブランドの案件に関わる機会をいただき、こうした現場を経験できたことは、自分にとって大きな財産になっています。
また、PSSと同じ会社になったことで「同じ会社だから聞いてみよう」とちょっとしたことでも相談しやすくなりました。実際に相談すると、快く、柔軟に寄り添って対応してもらえたと感じています。
A.W:ラグジュアリーブランドが入る商業施設に関わる中で、これまで自分が見てきた内装の仕事とは、調整する範囲も、求められる精度も、スケール感も違うと感じました。
特に印象的だったのは、K.Kさんたち設備部隊の皆さんが入ってくださってから、現場のスピードが一気に上がったことです。設備のことで確認したいことが出たときに、すぐ相談できる。判断も早くなりますし、S.Iさんを含むテナント工事の担当者に情報を共有して、すぐ次のフェーズに移れました。統合して同じ会社になった意味を、現場で実感した瞬間でした。
もう一つ印象に残っているのは、完成後に設置されたテラスの銘板です。この建物の計画・工事に関わった人の名前が刻まれていて、そこに自分の名前もあったときは本当にうれしかったです。調整や確認に追われた時間も含めて、「このプロジェクトに関われてよかった」と思えました。
K.K:私たち施設管理の仕事は、オープンしてからが本番です。施設が毎日きちんと動き続ける状態をどう保つかを考えています。内装の現場では、どうしても「オープンまでに完成させること」が大きな目標になりますが、実際に使い始めると、設備の動き方や人の流れ、清掃のしやすさなど、さまざまな課題が見えてきます。
だからこそ、できるだけ早い段階から施設管理や設備の視点を入れることには意味があります。統合の効果は、こうした日々の連携の中から少しずつ形になっていくものだと思います。つくる側と守る側が近くにいることで、完成後に起こり得ることを前もって考えられるようになる。そこに、J.フロントプライムスペースとしての可能性があるのではないでしょうか。

――現場の皆さんのお話にあったような連携の速さは、統合前からの積み重ねがあったからこそなのでしょうか。
𠮷村:おっしゃる通りで、まさに連携がしやすい土壌をつくろうと、統合準備として2年ほど前から人財交流を進めてきました。
若手同士の交流会や懇親会に加え、PSSからの出向でJ.フロント建装の物件に入ってもらったり、逆にJ.フロント建装の設計担当がPSSで設計のディレクションを学んだりしてきました。座学ではなく、実際の物件に入って動く形で経験した人は、統合時にも相手の仕事への理解がある程度あったと思います。
――そうした交流を重ねる中で、両社の企業文化の違いを感じる場面もあったのではないでしょうか。
𠮷村:そうですね。百貨店が母体のJ.フロント建装は真面目でしっかりしたイメージで、PSSはパルコに源流があるためか、髪色や服装も含めて、文化創造的で柔軟・カジュアルな印象です。最近はJ.フロント建装の社員もだいぶカジュアルになり、PSS寄りになってきたかもしれません(笑)。
車田:文化の違いが表れていたのが海外研修の報告会の資料です。2026年はバルセロナを訪れたのですが、J.フロント建装の出身者はホテルの部屋数や図面まで入れた、そのまま建築雑誌に出せそうな資料をつくる一方、PSSの出身者は街の雰囲気や食事も含めた「るるぶ」のような資料になるんです。それだけ文化が違うのが面白いところです。
交流から育む新たな組織文化。違いを強みに変え、会社の未来を創る
――組織の融和に向けた取り組みも進めているのでしょうか。
𠮷村:新しいオフィスは融和のための装置でもあります。お互いがわからないからこそ、顔が見えるようにしたいと思って、フリーアドレスにしています。学ぶ場も必要だろうと考え、商談室ごとに著名デザイナーが手がけた椅子や照明、多彩な木材を使用した大テーブルを配置しました。照明やサンプルを検証できるラボも設けるなど、使いやすさと学び、交流を意識した空間にしています。
内装を手がける会社ですから、機能はもとより、見た目にもこだわりたいじゃないですか。ですので、エントランスやラウンジは、内装のかっこよさも追求しました。
車田:コロナ禍を経て、オフィスのあり方も変わってきました。在宅勤務が減り、出社する機会が増えているからこそ、「行きたい」と思えるオフィスであることが大切です。ものづくりに携わる会社ですから、自分たちのオフィスも自慢できる場所でなければいけないと思っています。

𠮷村:その他にも具体的な取り組みとして、eスポーツ事業を手がけているグループ会社のXENOZ(ゼノス)のサポートで、eスポーツ交流イベントや鏡開きなどを行いました。XENOZならではの運営ノウハウで、一般的な交流会とは異なる内容になり、本当に盛り上がりましたね。拠点も多いため、まずはお互いを知る場として非常に有効でした。
車田:予想以上の盛り上がりでしたね。私と𠮷村さんが宴会好きというのもありますが(笑)。2時間ほどのイベント中、ゲーム自体は30分程度でしたが、全員が集中して強い一体感が生まれました。組織図を変えるだけでは融合は進みません。感情的な距離を縮める場になりました。

――イベントが融和のトリガーになったのですね。では、その一体感を日常業務へ広げるため、皆さんは日々のコミュニケーションで何を意識していますか。
I.S:まずは、コミュニケーションが大事だと思うので、自分から積極的に会話するように意識しています。出社時には同年代や同期に「今どんな仕事をしてる?」と声をかけています。
A.W:私もJ.フロント建装出身者と話すことを意識しています。彼らが持つ内装の幅広い知見を積極的に吸収していきたいです。

K.K:施設マネジメント担当の私は、まだJ.フロント建装出身者との接点が少ないのですが、多様な経験を持つ方々と交流できるのは大きな魅力だと感じています。現在、松坂屋名古屋店では両社出身のメンバーが一緒に関わる工事が進んでおり、今後はパルコでもJ.フロント建装出身の皆さんと一緒に、商業施設の仕事ができればと思っています。
――𠮷村社長に伺いたいのですが、個人のつながりが濃くなり、シナジーが生まれるようになった先には、どのような会社像を描いていますか。
𠮷村:J.フロントプライムスペースでは、「想いを、カタチに。未来へ、共に。〜想像と期待を超えていく〜」というミッションを掲げています。これは、お客さまの想いを形にし、クライアントの未来をともにつくるという意味はもちろんありますが、それだけではありません。社員やパートナーの想いも、みんなで一緒に形にしていく。新しい会社だからこそ、そうしたことを具現化していきたいと思っています。
社員一人ひとりにも「こんな仕事をしたい」「こういうキャリアを歩みたい」という想いやライフステージに応じた希望があります。それは一緒に働くパートナーも同じです。内装事業と施設事業という異なる領域が一つの会社になったことで、キャリアの可能性が広がり、これまでできなかった仕事や、それぞれが思い描いていた働き方・成長を実現できるはずです。
車田:個人の成長が組織の成長につながります。経営側が方向性を示しつつ、現場から上がる「やりたい」という声を受け止めることで、面白い取り組みが次々と生まれる組織にしたいですね。
自分たちの仕事の質を上げ、効率を高め、会社の収益を生み出す。その成果が社員に還元されるという循環をつくりたいですね。「給与は自分たちで上げていくもの」という前向きな意識を持てる会社にしていきたいです。
――経営陣の思いを受けて、若手の皆さんは今後どのように成長していきたいですか。
S.I:HAERAでラグジュアリーブランドの案件に関わった経験を通じて、内装の仕事は、お客さまの思いやブランドの世界観を理解し、それを多くの人と一緒に形にしていく仕事なのだと感じました。
将来的には、自分単独で担当できるブランドを持てる営業になりたいです。J.フロントプライムスペースには技術力がありますし、そこに施設管理や運営の視点も加わります。営業として提案の幅を広げ、「あなたに頼みたい」と言っていただける信頼関係を築くのが目標です。

A.W:今後は自分もラグジュアリーの領域に手を伸ばしてみたいと思っています。内装監理の経験をもとに、「A.Wさんなら安心だ」と言われる存在になりたいです。その先に、統合で広がった他の事業の仕事にも挑戦してみたいですね。
K.K:今、私が見ている名古屋エリアには、名古屋PARCO、松坂屋名古屋店、HAERA、BINO、ZERO GATEなど、さまざまな施設があります。全体としてどう効率よく、質を落とさずに運営していくかを考えていきたいです。まずは名古屋で、複数の施設を横断して管理するモデルをつくり、そこで得たノウハウを将来的には他のエリアにも展開したいと思います。
施設を安全に、快適に保つことはもちろん、それをもっと効率的に、もっと良い形で続けていくにはどうすればいいか。そこまで考えられる会社になれば、内装と施設管理が一緒になった意味もさらに出てくるのではないかと感じています。

――最後に、5年後、10年後の未来に向けて、J.フロントプライムスペースをどんな会社にしていきたいか教えてください。
車田:私たちが今向き合っているマーケットが、5年後、10年後も同じ形で拡大し続けるとは限りません。ホテルやラグジュアリーブランドの市場環境が変われば、まったく違う領域に進出する可能性もあります。だからこそ、変わることを恐れない会社でありたいですね。
そして、私たちの事業は人が基盤です。人財採用の観点からも、社員一人ひとりが今以上に幸せだと思える会社でありたいですし、家族や友人に自慢できる会社でなければならないと思っています。
𠮷村:唯一無二である「循環型営業」を伸ばしたいですね。強みである高質・上質領域を成長させつつ、今後はより市場規模の大きい商業施設の領域にも進出していきます。
ひいては、業界トップを目指したいですね。ただし、現在の上位2社と同じ領域で競うということではありません。私たちが目指すのは、内装と施設管理を併せ持つ強みを生かしたニッチトップです。
ホテルやラグジュアリーブランドで培ってきた上質な空間づくりの技術力に加え、統合によって施設事業にも大きな可能性が広がりました。上位企業が容易には入ってこられない領域を、自分たちの手でつくっていきたいと思っています。
そして、10年後には、J.フロントプライムスペースという名前を誰もが知っている会社にしたいですね。
